蕾は未だに咲かないⅠ



コトリ、とカップが置かれる音が響く。

それで何となく顔を上げると、困ったように笑う垂れ目の彼と目が合った。彼の手元には、珈琲のカップ。

まだ冬だな、と感じる寒い部屋。悲しい、所だ。


「俺は久遠輔(くどう たすく)。宜しくね。」

「は、はあ…――城崎、明津(しろさき あくつ)です。」


お互いに名乗った。
お互いに宜しくする気配はないけど。

だって、輔さん…あの綺麗な男の人に言い使われてこうしてるんだろうし。“普通の女”に礼儀をやってるだけだと分かる。


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