夜香花
「わかった。もういい」

 真砂が手を振ると、捨吉と羽月は、がばっと立ち上がり、勢い良く頭を下げてから、地を蹴った。
 あっという間に姿が消える。

「……里の中で、そう急ぐこともあるまいに。よっぽど嬉しかったと見える」

 ふ、と笑いながら、清五郎が立ち上がった。

「珍しいじゃないか。いや、もうあいつらには、用はないってことか」

 清五郎の言葉に、真砂は口角を上げた。

「わざわざ調べる必要がなくなったのさ。『深成』はすぐ傍にいるしな」

 面白そうに言う真砂に、清五郎は、一瞬首を捻る。
 が、すぐに思い当たったらしい。

「もしかして、あの娘っ子か。そういや最近、千代が上機嫌だと思ったら、今朝は一転して不機嫌だったぜ。真砂のところに、あの娘、いるのか」

「頑張って、俺を狙ってるぜ」

 そう言って、ちらりと傍の茂みを見る。
 同時にそこから、何かが飛んできた。
 真砂は素早く横に飛び、それを避ける。

「……苦無?」

 同じように反対側に飛んだ清五郎が、地面に突き刺さったものを見て呟いた。
 着地と同時に足元の小石を拾った真砂は、ひょいと茂み目掛けてそれを投げる。
 小石が茂みに消えると同時に、小さく悲鳴が上がった。

「いたっ!」
< 82 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop