ペテン死のオーケストラ
しかし、仕事の辛さはマートルを追い込んでいきます。
朝の7時から夜の8時まで休む事なく働かされます。
少しでも休むと叱られ、少しでも失敗すると怒鳴られる毎日。

マートルは苦しくて仕方ありませんでした。
しかし、他の職場を探す時間もありません。
毎日、毎日、過酷な労働を余儀なくされていたのです。

マルメロは直に6才です。
マートルはマルメロが可愛らしい事に変わりはないのですが、一つ気に入らない事がありました。

ゴワゴワの髪に、鋭い瞳。
マルメロは、大きくなるに連れドンドンとジキタリスに似てくるのです。

「何で、私に似なかったのかしら」

マートルはマルメロを見る度に、ジキタリスを思い出さなくてはいけません。
それは、マートルにとって辛い事でした。

「私への戒めなの?」

マートルは自分を神が罰しているのだと考えます。

しかも、マートルは父親について興味を持ちはじめたのです。

「お父さんて、どんな人だったの?」

この問い掛けにマートルは答えられません。
ただ、「ずっと昔に別れたから忘れた」とごまかす事しかできません。

「会ってみたいなぁ!」

マルメロは笑顔でマートルに言います。
その度に、マートルの胸は締め付けられるのです。

お喋りが大好きなマルメロは、マートルが疲れていても気にせず話します。

「町の人にね、まんまるマルメロって言われたの!ひどいよね?私ってまんまるなの?」

「町の人にね、目が恐いって言われたの!ねぇ、私の目って恐い?」

「町の人がね、意地悪してくるの。なんで私ばっかり意地悪されるの?」

マートルは仕事で疲れているため適当にしか返事ができません。

それでもマルメロはペラペラと話し続けるのです。
いい加減、疲れたマートルは言いました。

「疲れてるのよ。ちょっと、一人にしてちょうだい」

その言葉を聞いたマルメロは悲しそうな顔をします。
マートルは胸が痛みました。
しかし、本当に体力の限界だったのです。
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