あなたと私のカネアイ
「やっ、円!?」

 最初は横たえられた衝撃に驚いて、次は円の身体が覆いかぶさってきたことに戸惑う。

「ま、待って! なんでっ」

 この体勢になったら昨夜の触れ合いが思い出されて、身体が硬くなる。

「それ、俺が聞きたい。なんで結愛はキスを拒まなくなったの?」
「――っ」

 どうしよう。答えられない。

「俺のこと、好きになってくれた?」
「ちが、う……」

 掠れた声でなんとか答える。
 でもそれは、本当に私の気持ちなんだろうか……

「じゃあ、嫌い?」

 違う。
 嫌いではない。でも、好きではない。

 ――じゃあ何でキスを受け入れるの?

 私の答えを辿っていくと、結局最初の質問に戻ってきてしまう。
 円とのキスを嫌がっていない私は、自分の中にある欲求が大きいことを再確認するだけだ。
 こんなのおかしい。

「好きじゃないけど、キスはいいの?」

 そっと、円の手が私の髪を梳く。
 いつもセットするのに苦労するくせっ毛――やっかいな髪に優しく触れる円の手は心地良かった。
 こんなの、本当に変だ。
 相手を好きじゃないのにキスは嫌じゃないなんて、矛盾しているはずなのに、どうしてか拒めない。
 
 困ってる。こんな私は変なのに、元に戻れなくて。
 知りたくないと思う冷静な自分と知りたい欲求に忠実な自分――カネアイがとれない。
 円を拒む理由が見つからないから――…

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