本当はね…。

資料の量は予想以上に多かった。
歴代の生徒名簿だったり、会議の資料だったり…まとめるとなると、かなりの時間がかかりそうだ。気が遠くなりそう…。
…けど、まぁ…その分カオル先輩と顔を合わせなくて済むのはラッキーだったのかも…。こんな考え方をしてしまう私は…。
自分の考え方が卑怯で、最悪で…。またため息が出た。
私は、本当に生徒会に入ってしまって良かったのか…。

『今の俺にもお前が必要なんだ。』

佐々舞尋の言葉が…いつだって私を導いてくれる。
でも、不安にならないわけでもないのだ。
こんな弱い私を、カオル先輩はなんで?
出会ってまだいくらも経ってないし…。
「……はぁ…。」
出てくるのはため息ばかりだ。
そこに…。
「幸せ逃げちゃうよ?」
「きゃっ‼」
いきなり視界がユキ先輩でいっぱいになった。
「あ、ひどい。僕、お化けじゃないもんっ。」
私の反応に頬を膨らますユキ先輩。
「や…あの…ごめんなさい。いきなりだったから…。」
思わず変な声を出してしまった…。それに…ちょっと距離あけちゃったし…。
いや…でも、これは仕方ないというか…。でもでも…やられた方はショックだよね…確かに…。
……いつの間にか反省してしまっていた…。
「……ぷっ。ふふふっふふっ。」
そんな私をユキ先輩が笑った。びっくりしたけど…なんか…私もおかしくなった…。
「チサちゃんてさぁ、わかりやすいよね。可愛い。」
資料整理に戻りながら、ユキ先輩は笑ってそう言った。
…正直困る…。可愛いなんて…言われ慣れてないから。それに、ぶっちゃけユキ先輩の方が可愛いと思う…。なんて言わない方がいいのか?
「僕さぁ、チサちゃんのこと好きだよ?」
「…は…はぁ……。」
これまた急に。
これは…喜ぶべきだよね、うん。
好意を寄せてもらってるわけだし…。
「あ、ありがとうございます…。」
…私も別に、ユキ先輩のこと嫌いじゃないし…。
……え、でもこれって…私もなんか言った方が良いの?……わかんない…。
ユキ先輩は私を後輩として好んでくれてるわけだし…。
「んー……。」
いつの間にか声に出していたようだ…。
「やっぱり、これじゃ無理かぁ。」
「……ほぇ?」
ユキ先輩が何か言った気がした。
…無理って言った?…どういうこと?
「わ、私も好きですよ?ユキ先輩のこと。可愛いし、かっこいいし、……か、可愛いし?女の子の友達みたいで…一緒にいて楽しいです。」
良いところが多すぎて、上手く喋れない。可愛いしって二回言ってるし……。
すると、ユキ先輩の手が止まった。
………え。なんかまずかった?……え。なんかこっち来てない?てか、え?なんか…顔…いつもと違う…よね?
思わず私も後ろに下がってしまう。一歩一歩ユキ先輩が近づいてくる。下がる私の後ろは、もう少しで壁。なんか…追いつめられてる…?
「ユ、ユキ先輩?どうしたんですか?」
反応さえしてくれない。
本当にどうしちゃったの?ユキ先輩?
もう少しで壁についてしまう。どうにかしなきゃ……。
…と、思ったその時っ。

ーグシャー

っ‼‼
「きゃっ‼」
視界が大きく揺れた。
部屋の床に落ちていた書類を踏んで滑ったようだ。

……ヤバい…。倒れる…。

ーダンッー
大きな衝撃音が資料室に響いた……。
……。
ゆっくりと目を開けると…。
「大丈夫?チサちゃん。」
目の前にユキ先輩が…。
私の頭の後ろにはユキ先輩の手らしき感触が…。
バランスを崩した私が壁に頭をぶつけそうになったところをユキ先輩がかばってくれたらしい。私の上にユキ先輩が覆いかぶさるようなこの状況。
…大丈夫っちゃ、大丈夫なんだけど…。大丈夫じゃない気もする…。
………ていうか、全然大丈夫じゃないっ‼
心臓がうるさい。顔が熱い。近いよ、ユキ先輩。
間近のユキ先輩を直視できず目を瞑った。
早く離れて…と願いながら。すると…
「……ふっ。」
ユキ先輩が小さく笑った。笑われたことがまた恥ずかしくて、余計ユキ先輩を見れなかった…。心臓が、うるさくて。ドキドキが止まらない。
「チサちゃん?緊張してるの?」
からかうように、ユキ先輩は私の耳元で囁く。
ユキ先輩の動作一つ一つに過剰に反応してしまう私。
「ふふっ。ホントに可愛いね、チサちゃんは…。」
私の反応を面白がっている…。
「ねぇ、チサちゃん?顔上げて?」
ユキ先輩の甘くて少し高い声が…私の耳に熱を持たせる。
こんな状況で顔上げるなんて…無理に決まってる…。
私は首を横に振った。必死の抵抗だった。
「…なんで?」
ユキ先輩の息が耳にかかる。熱い…。ユキ先輩は、女の人に慣れてる…。そう感じた。私が黙り込むと、ユキ先輩も黙り込んだ。
……しばらくして…。
「……僕のこと嫌い?」
沈黙を破った不安そうなユキ先輩の声。
……っ‼‼
まただ…。私…またユキ先輩を傷つけて…。
「違いますっ‼」
考えるよりも顔が言葉がこぼれた。勢いで顔も上がった。ユキ先輩と目が合った。………うわ。
「騙された……。」
目が合ったユキ先輩は声の様子とは全くかけ離れた表情だった。
「引っかかったぁ。」
ニコニコしたままユキ先輩がさらに顔を近づけて来た。私がもう下を向けない距離…。賢いのか、ずるいのか…。
「こうでもしないとこっち向いてくれないかな…と思って。ごめんね?」
謝る気はさらさら無いような顔…。
こっちは、うるさいくらいに心臓が跳ねてるっていうのに……。
緊張しすぎて、涙がこみ上げてきた。涙腺の感覚まで緊張して麻痺してしまったのだろうか…。
どうにかしなきゃ……。
「あの…ユキ先輩…近いです…。」
私の息もユキ先輩にかかってしまいそうで…。
「そぉ?」
明らかにこの状況を楽しんでいる笑み。
この人は……。
どうしよう。………。


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