本当はね…。

とりあえず、インターホンという結論にたどり着いた。…わけなんだが。
………。
………。
出てこない…。え、反応無し?無視?
いや、待て。もう一度だけ…。もう一度。
………。
………。
………。
反応無し。物音一つしない。
……帰っていいですか?
なんなの⁉私が悪いの?家はここであってるはずでしょ?なんで誰も出てこないんですか?おかしいでしょ‼
……もう、いい。あったまきた。帰る。
「やってらんないっ。」
キャリーケースの向きを変え、私は来た道を戻ろうとした。……すると。
「七瀬っ‼」
背中の方から声がした。
…この声知ってる。振り返らなくても、わかってしまう。
「…っ…わりぃ。連絡ミス。ユキに伝言頼んだんだけど、忘れてたっぽい…。悪いな。」
声の主は佐々舞尋。わざわざ走ってきてくれたようだ。
「ここも俺ん家なんだけど、今日はもう少し先に行った方なんだ。わりぃ…暑いけど歩けるか?」
……私服だ。佐々舞尋が私服だ…。なんか…やっぱり顔は良いから何でも似合うのか…。
「………七瀬?」
「……え?……あ、はい。大丈夫です。歩けます。」
別に見惚れてたとかそんなんじゃない。いつもと少し違っていて違和感があっただけだ。決して見惚れていたわけじゃ…。
「……っ‼‼」
自分に言い聞かせるように一人で悶える私の手が急に軽くなった…。
「…えっ。」
私のキャリーケースが佐々舞尋の手に渡った。
「2、3日分の荷物入ってんだろ?こっから歩くし、持つ。」
私の反応に佐々舞尋が応えた。
……。
「だ、大丈夫です。そんな重くないんで…。」
なんでこういう時に限って女の子扱いするの?
「っるせ。俺に持たせとけば良いんだよ。女は無理すんじゃねぇ。」
なんで私が怒られてるんでしょう…。
「…じゃぁ、お言葉に甘えて…。」
納得はしてないけど、一応ご厚意(?)に甘えておく。離れて行く佐々舞尋の背中が目に入り、追いかけるようにして私も歩き出した。
私たち二人は横に並んで歩く。会話は…ほぼ無し?道が狭いからか車通りも少なかった。
…………。
二人の足音だけが聞こえる。
……でも…なんか…。気まずいと感じないのだ。普段…友達とかと沈黙が続くと何か話さなきゃっ、てなるんだけど…。
この沈黙は…嫌いじゃなかった。
確か前にも同じことを考えたことがある。中学の時も…。
「お前ってさ…俺と二人の時って何も話さないよな…。」
思い出す私に不意に届いた佐々舞尋の声。反射的に顔を上げてしまった。
…佐々舞尋の声が…少しだけ切なそうだったから…。
「ちがっ……。」
なぜか、否定しなきゃいけないと感じた。私は話したくなくて話さない訳じゃない、と。この時間が嫌いじゃない、と。でも……。
「なんか…今更だけど、俺ってここまで嫌われてたんだな……。」
一瞬にして周りの音が消えた。
セミの声も…少し遠くの車の音も…キャリーケースが引きずられる音さえも…。一瞬にして…消えてしまった。私の耳には届かない。急に違う場所に取り残されたような…。
私の目には、佐々舞尋の切なそうに…どこか割り切ったような表情が映った。
……それでも。それでも、私は何も言えない。私は……もうやめたから。……やめたはずだから。
……なのに…。どうしてこんなに寂しいのだろう。どうしてこんなに苦しいのだろう。
否定したい。違うって言いたい。…けど…。言えなかった。
「……ぇ…え。どうしたんですか、急に。」
動揺しちゃいけない。…なのに。
私が口を開いた時、一瞬だけ見えた佐々舞尋の微かに期待するような表情が…余計に胸を締め付けた。
「…いきなり何を言ってんですか。今に始まったことじゃないじゃないですか。」
佐々舞尋を見れなかった。
きっと佐々舞尋はこっちを見ているだろう。見なくてもわかる。
でも…。私は無理だ。
「…………。」
「…………。」
お互いにまた沈黙。さっきとは違って…なんか…息が詰まるような…。
……。私のせいだ…。
…やっぱり、勉強会参加するの辞めようかな…。元から参加する気は無かったし…。
「……ぁ…あのっ‼」
決心して顔を上げた瞬間…。

ーぼふっー

「…っ‼‼‼」
鼻に激痛が…。
「あ…わり…。」
鼻を押さえる私の前で佐々舞尋が申し訳なさそうに立ち止まる。
………。あれ?もしかして……。
「着いた。ここ。もう皆来てるから。」
佐々舞尋の指差すその先には、少し洋風の雰囲気が漂う一軒家が…。……え。着いちゃった…。
……ていうか、さっきのが家って言ってたよね?ここも家だよ?……。
…え。この人…お坊ちゃんじゃん。
………なんだろう、この脱力感。
「遠慮しないで良い…。三連休の間は、俺らしか使わないことになってるから。」
「…はっ…はぁ…。」
そういって案内された一部屋。
「3日間この部屋使って。お前の部屋。飯の時は、今上がってきた階段の奥がリビングだから。そこで皆で食う予定。風呂は…悪いけど一階の方使ってくれ。一応二階にもあるけど、狭いし俺らが使う予定だから…。そこは…な。」
「あ…はい。お気遣いありがとうございます。」
……私だけだろうか…。お風呂が二つあるお家に驚いているのは…。
「説明はそれくらい…。わかんねぇことあったら俺に聞いてもらってかまわねぇから。…あ、でもミサキとか結構ここ来てるしアイツに聞いてもわかると思う。」
「……あ、はい。」
「じゃぁ、俺らリビングで勉強してっから。荷物とか…落ち着いてから来ればいいから。」
「……あ、はい。」
さっきから「あ、はい。」しか言ってないよ私…。
バタンと音を立てて部屋のドアが閉まり、佐々舞尋が出て行った。
私はそばにあったベットに腰をかける。
………。
私…女一人じゃん。…え⁉…え⁉1人じゃん。
………忘れてた…。半ば強引な誘われ方されたから忘れてた…。
「……。まぁ……いっか。」
私が女だからって何だって話ですよ。
普段から生徒会活動してるし。何の問題もない。そう。何の問題も…。
そんな感じで勝手に解決。
勉強会ってことで来たんだし。さっき帰ろうとは思ったけど…。もう参加しちゃってるわけだし。来たからには集中して頑張らなきゃ。先輩達にも迷惑かけないようにね。
私はすぐに荷物をまとめ、勉強道具を持って一階へと向かった。

……。そんな簡単に勉強会が終わるはずもないなんて…この時は考えてもいなかった…。

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