Sweet Heart
「これは俺がバイトしてようやく買ったバイクだ。中古だけどよく走るしな」
「そうなんだ…」
そう言ってバイクを大切そうに触る榎本喜一
家事もしながらバイトもしてようやく手に入れたものだ…
例え中古であったとしても榎本喜一にとっては宝物なんだろう
欲しい物を手に入れるために頑張った榎本喜一が何だか私には羨ましく思えた
嫌みとかそんなのじゃなくて、ただ純粋に夢中になれる何かのために必死に努力できるのが羨ましかったんだ…
「何なら後ろに乗るか?」
「へっ?」
「夜に走ると気持ち良いんだぜ!」
すると榎本喜一は私の返事を聞かずに軽々と持ち上げ、私をバイクの後ろに座らせた
「って、違う!真智ちゃん達を置いて出て行って良いの!?」
「あぁ~!それなら気にすることねぇよ!何てたって俺の妹と弟達だからな!」
「何よ、その理由!意味わかんないわよ!」
しかし私は真智ちゃん達が気になり、理解不能なことを言う榎本喜一にずっと叫んでいた
「ったく。ギャーギャーうるせぇ女だな!真智達のことは良いから行くぞ」
「でも…」
━ポンッ!
「俺がお前に良い風感じさせてやるよ」
なかなか納得しない私に榎本喜一は言葉を遮るように私の頭にヘルメットを被らせる
子供っぽく無邪気に笑い、どこか優しさを感じさせるような表情を私に向けた
そんな顔をされるとさすがの私も何も言い返せないじゃない…
私はそれ以上何も言えなくてただ小さく「…うん」と言って頷いた
「よっしゃー!ぶっ飛ばして行くぞー!」
「ぶっ、ぶっ飛ばすって…ギャー!!」
そして榎本喜一は全速力でバイクを走らせた