不器用上司のアメとムチ
ガバッと身体を起こすと、さっきまで閉じられていた久我さんの瞳が……
涙でぐしゃぐしゃになったあたしの顔を映し、微笑んでいた。
「く、がさ……っ」
「あーあ、美人が台無しだぞ……」
包帯だらけの手が、あたしの髪をわしゃわしゃと散らす。
こんな時に見た目なんて構ってられるわけないじゃない。
よかった……本当によかった。
さっきとは違うあたたかい涙が、あたしの頬を濡らした。
「そうだ……お医者さん、呼ばなきゃ……っ」
服の袖でごしごし涙を拭い、パイプ椅子から立ち上がろうとしたら「ちょっと待て」と引き留められた。
「お前な……人がやっとの思いで口にした言葉を無視すんなよ」
「え……?あ……さっき、何か言ってましたね。それよりも目を覚ましてくれたことが嬉しくて、忘れちゃったので……もう一回言ってください」
「……正気で言ってんのか」
「…………?」
「参ったな……」と嘆くように呟きながら、おでこに手を当てる久我さん。
一体、何を言ったんだろう……