不器用上司のアメとムチ
「……もうちょい、こっち来い」
「は、はい」
ギシ、と音を立てて、あたしは椅子ごと枕元に移動する。
なんとなく、大切な話のような気がしたから……お行儀よく膝に手を置いて、彼が口を開くのを待った。
「本当は、きちんと過去にケリをつけてからと思ったんだけどな……」
言いながら、どこか遠くを見つめる久我さん。
傾きかけたオレンジの陽が窓から差し込んで、彼の顔を優しく照らしていた。
「小梅」
「は、い……」
「俺はお前が好きだ」
ドキン、と大きく心臓が波打つ。
それから胸に熱いものが満ちてきて……それが一杯になると、溢れた分はまた新しい涙となってあたしの瞳からこぼれた。
「……なんで泣く」
「だっ、て……」
ずっと待っていた言葉だもん……
キスだってその先だって、「好き」の二文字がなければただ欲を押し付けられただけなのかと思えて。
好きなのはあたしの方だけなんだと、何度も切ない気持ちにさせられたから……