不器用上司のアメとムチ
……二人の会話が読めない。
久我さんが意識を取り戻したのはついさっきの話なのに、まるでそれ以前に二人は話していたような口ぶりだ。
「ごめんなさい……ハメるつもりはなかったの」
あたしに声を掛けてきた森永さんが、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ハメるって……?」
「本当は久我さんの意識はとっくに戻っていたの。だけど、あなたの本音を引き出すためには、久我さんが危険な状態ってことにしていた方がいいと思ったから……」
「え?」
それじゃあ、もしかして……
「あたしの話……全部聞こえてたってことですか!?」
あたしは、ベッドのそばにいた佐々木の体を押しのけて、久我さんに詰め寄った。
……もしそうなら恥ずかしすぎる!
「……管理課に来た初日からってやつか?」
「あぁ……それ聞こえてるってことは、やっぱり全部……」
嘘は言ってないけど、久我さんの記憶を抹消したい……
あたしはがっくり肩を落とした。