不器用上司のアメとムチ
「あの、姫原さん……」
後ろから、森永さんに肩を叩かれた。
「なんでしょう……」
あたしは今のショックで覇気を失った表情を、彼女の方に向けた。
「あなたに、まだ言ってなかったよね……助けてくれてありがとうって」
「あ……いえ、そんな」
あたしは姿勢を正して、体の前で両手を振る。
でも、どうしてあの時彼女が道の真ん中に飛び出したのか……その疑問は消えないから、あたしは素直にそれを口にした。
「森永さん……どうして、あんなことを……?」
すると彼女は淋しげに笑って、「長くなるけどいい?」と、ここにいるあたしたち全員の顔を見渡した。
あたしたちはもちろん、三人揃って頷いた。