不器用上司のアメとムチ

一瞬穏やかになった病室の空気。

けれどまるでその時を見計らったかのように、森永さんがすうっと息を吸い込み、話の核心に触れた。


「――――今日ね、彼と病院に……妊娠できたかどうかを確認しに行ったの。そしたらやっぱり、今回もできていなかった。

私がまた次も頑張ろうねって言ったら、なぜか彼がすごく暗い表情で……どうしたのって聞いたら、話してくれた。“両親がもう待てないと言ってる。新しいお嫁さんを探しなさいって、はっぱかけられてる”って……

そしたら私もう、目の前が真っ暗になっちゃって」


だから……店に戻るという彼と別れたその足で……あの交差点に。


森永さんは、その時の気持ちを思い出したかのように、苦しげに眉根を寄せながら話した。

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