不器用上司のアメとムチ
「……ひでー。その彼氏さんの親もひどいですけど、彼氏さん自身がなんで森永さんを庇ってやらないんだろ。同じ男としてすげー腹立つ」
怒った調子で言う佐々木を、森永さんは一瞬驚いたように見て……そしてくしゃりと顔を歪めて、泣きながら呟く。
「ありがと……佐々木」
ベッドに横たわる久我さんも、苛立ち気味に口を開く。
「好いた女なら、駆け落ちしてでも手に入れりゃいーだろうに……」
「久我さんも……ありがとう、管理課は、いい男ぞろいですね」
ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、けれど森永さんは笑っていた。
あたしも何か言えたらいいのに……もらい泣きしてしまって、鼻をすするばっかりだ。
「……あんな馬鹿なことしたあとでこんなこと言うなよって感じかもしれないんだけど……
私、姫原さんと久我さんがトラックに轢かれそうになったとき、怖くてたまらなかった。目の前で誰かが死ぬのなんて絶対にいやだって思った。
だから、もう心配しないで下さい……私、なんとか生きますから」
そう言って、前を向いた森永さんは……すごくすごくきれいで。
私はこの先輩のことが大好きだって思えて、また泣けてしまった。