おいでよ、嘘つきさん。

「さぁ、早く差し出せ。トリトマ!」


男の声に、トリトマは意を決し叫びます。


「何で渡さないといけない!?理由を言え!」


町の人々は、一瞬戸惑いをみせます。

しかし、すぐに言い返してきました。


「この町では、当然の事だ。共同墓地に埋葬することになっているだろ?」


共同墓地とは、この町にある大きな墓です。

町の人間が死ぬと必ず、その場所に埋葬されます。

トリトマは共同墓地が大嫌いでした。

理由は簡単。

気持ちが悪い、これだけです。

何故、気持ちが悪いのか。

それは、共同墓地の埋葬方法にあります。

大きな石に、死者の名前を刻むのですが、不思議な事に、必ず埋葬者数が偶数で増えていくからです。

一人の名前が刻まれる事はありません。

必ず、二人並んで刻まれます。


トリトマは、共同墓地を思い出し気分が悪くなりました。

そして、必死に叫ぶのです。


「兄貴は、共同墓地に眠る事を望んでいなかった!もっと静かな場所を望んでる!!」


「サフィニアが?嘘つけ!トリトマが勝手に言ってるんだろ!騙されるか!!」


「嘘じゃない!お前らだって知ってるだろ?兄貴が、騒がしいのが嫌いだったって!!」


「ぐっ…!でも、町のしきたりだぞ。勝手は許されない!」


「死者に勝手も何もないだろ!兄貴の夢を叶えてやりたいんだ!!」


トリトマは必死でした。


町の人々も必死です。

サフィニアとトリトマだけ例外は許されないからです。

だからと言って、堂々と悪習を実行する訳にもいきません。

皆、見て見ぬフリをする、そして秘密裏に行われている悪習。

そんな悪習を、こんな騒ぎの中、堂々と行う勇気が誰にもなかったのです。


そんな事をすれば、自分の首を絞めることになるからです。
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