腕枕で眠らせて
壁の向こうはロッカールームだと思う。
そして声の主は退勤の時間を迎えたさっきの高校生二人だと。
「あたしもそう思ってたー。だって二人いつも一緒じゃん」
「オーナーと玉ちゃんお似合いなのにね。なんかショック。ミサにメールしちゃおっと」
「おはようございまーす」
「あー山下さん!聞いて下さいよー!今ね、オーナーの彼女って人が来てて…」
…どうして私、ここに来たんだろう。
ここは、あの人の場所じゃない。
この椅子、紗和己さんとあの人がいつも座ってる物じゃない。
この事務室、紗和己さんとあの人が一緒に過ごしてる場所じゃない。
なんで私、こんな所に飛び込んで来たの。
悪いのは紗和己さんじゃない。たわいない噂話をしてる高校生でもない。もちろん玉城さんでもない。
些細な事で濁っていく、私。
ドンドンと嫌な音をたてる心臓を押さえて事務室の壁にもたれ掛かった。
逃げ場が無い。どこにも行けない。
―――………
『ちょっと美織!楷斗が経理の子と付き合ってるって噂流れてるよ!?どういう事?このままでいいの!?』
『…気にしないよ。だって、噂じゃない』
―――…息が、苦しい。
―――あの時と同じプロローグが始まっている。