腕枕で眠らせて



30分だけですし、と言って紗和己さんは私を店の奥にある事務室で待たせてくれた。


小さな部屋にはパソコンの乗ったオフホワイトのデスクと大量のファイルが入ったキャビネット。

商品の入った段ボールが幾つか置かれたりして、特に何の変てつもなくよく片付いている普通の事務室という印象。


パソコンデスクの脇に置かれてるブライドルレザーの鞄だけが唯一見覚えがあって私をホッとさせる。


デスクのすみっこにあるコーヒーの空き缶は紗和己さんが飲んだものだろうか。


ひとりなのをいい事にキョロキョロと辺りを見回してしまった。



きっと紗和己さんはお店に来たときいつもここで仕事をしてるんだろうな。このパソコンから発注のメールも打ったりして。


そう考えると気持ちが少し和らいだ。



デスクの前の椅子にギシリと座って何気無く缶コーヒーの空き缶を手に取る。

鼻につくまだふんわりと香ばしい香り。

加糖だ。珍しいな。紗和己さん甘いコーヒーなんかあまり飲まないのに。

…疲れてるのかな。

先月忙しかったのに、やっと少し楽になると思ったら玉城さん入院しちゃってその穴埋めでまた出勤だもんね。


そんな大変な時に私はダメだなあ。



甘い香りのする空き缶をコツリとデスクに置き直した。

その香りを振り切るようにパッと顔を上げる。



もう絶対、心配掛けない。

大丈夫。紗和己さんの顔見たら落ち着いたし。


そうだ。今日は一緒に帰って紗和己さんの部屋でご飯作ってあげようかな。


大した事してあげられないけど、少しでも何かしてあげたい。うん。私、恋人なんだもん。彼を支えてあげなきゃ…




「オーナーって、玉ちゃんと出来てたんじゃなかったのー?」




顔を上げた壁の向こうから、無邪気で無遠慮なお喋りが聞こえた。



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