そして 君は 恋に落ちた。

「お疲れ様でした」



……はい。無視ですか。


社会人として、たとえ気に入らない相手に対しても挨拶くらい返しなさいよ、と心の中で呟きながら受付を通り過ぎた。


外に出ると、少し肌寒く感じる。

空を見上げて一息吐いた。


あー、今日も無事終わったぁ!




「春日さん、お疲れ様でした」


声に振り向くと、クリクリの瞳を細めて笑う松田君がいた。


「お疲れ様」

私が答えると、彼も空を見上げて、「もう秋ですね」と小さく言ってまた笑った。


「松田さん、駅まで一緒に行きませんか?」


後ろから女の子が小走りで走り寄ってきた。
それを見て、私は「また明日」と告げ歩き始める。

後ろからは、女の子の「春日さんと何話してたんですかー?」の質問に、彼は普通に「挨拶しただけだよ」と答えた。


私はそれを後ろで聞きながら、今日はワインにしようかなと思いを巡らせていた。

< 13 / 378 >

この作品をシェア

pagetop