エリートなあなたとの密約
「で、俺はどうなるの?」
じつに淡々と、でもどこか呆れたような声色を響かせた彼。
「もちろんレディを泣かせる情けない男には鉄拳あるのみ。ねえ、あなた?」
「あ…、ああ。頑張りなさい、……ふたりとも」
歯科医師をしているお義父さんは、奥さまであるソフィアさんの言葉にタジタジ。
「は、はぁ」と、その妙なアドバイスにただ頷くしかない私と修平。
すると、そこで新幹線が駅に到着してしまう。楽しいときは本当にあっという間だ。
笑顔のご両親の見送りを受けて、私たちは荷物とともにグリーン車に乗り込む。
私が窓側、彼が通路側に並んで指定の席に座る。そして、窓越しのソフィアさんたちに対して笑顔で手を振った。
プルルルル、とそこで無情にも鳴り響く発車を告げるベル音。
最後にふたりで小さく頭を下げると、窓の向こうのふたりは柔らかい顔をしていた。
そして静かに動き始めた車体は、大好きな名古屋から私たちを引き離していく。
「あーあ、水族館行きたかったなぁ」
素早い速度で流れていく景色を、がっくりしながら見つめる私。
仕事上、日帰り出張などで名古屋は幾度となく訪れてはいる。けれど、プライベートでは数えられるほどだから惜しくて仕方ない。
「時間なくてごめんな」
「ううん!違うよ!私だって朝イチ会議だもん。お互い様だよ」
大きく頭を振りながら笑いつつ、心の中で子供じみた発言をしたと反省する。