エリートなあなたとの密約
今日のために購入していた、マッキントッシュの新作のグリーン色のワンピース生地をきゅっと掴む。
新幹線でたった2時間ほどの距離。それでも、ふたりの都合を合わせて来ようとすれば難しいのが現状だ。
一緒にいられると、つい無意識に甘えてしまうところに自己嫌悪したい……。
「真帆、今日は綺麗に見えるよ」
「え?」
そう言われて顔を上げた私は、窓の向こうを指さす彼にならって窓へと視線を移す。
高速で進む車体は既に愛知県から脱しており、車窓からは悠然とそびえる富士山を垣間見ることが出来た。
「わぁ」と、声が漏れる。時間にしてほんの僅かでも、自然の雄大さは一瞬で人を魅了する。
出張の移動中は、いつも作業に追われて景色を眺める余裕がない。こうして見るのも皆無であったため、私にはなおさら特別なものに見えた。
「――富士山に登って、時季が合えばいちご狩りも良いな。
食いしん坊の真帆ちゃんには外せないよね?」
「……じゃあ、春限定ね」
「やっぱりね」と笑うものだから、すっかり食いしん坊のお墨付きを得た私は頬を膨らませる。
「でも、まずは名古屋の水族館かな?――少し落ち着いたらドライブがてら行けるよ」
そんな私の頭をポンポン、と大きな手であやすように撫でて言う修平。