エリートなあなたとの密約


私にはそんな彼らの考えはとても読めないけれど。……きっと、それ以上の“何か”を求めているはず。


もちろん、先を見据えて動くのは大切なこと。但し、今の私は、修平と松岡さんの間に踏み込む必要はないので頭の片隅に置くだけだ。


何より、普段から考えの読めない彼らを探ることなど不可能に近い。そう、プライベートでもそれは同じだもの。


確かに本当はもっと教えて欲しいと不満に感じる時もあるけれど、彼が口にしない件は私が知る必要のないことなのだと解釈してきた。こちらの過去にしてもまた然り。


ちなみにそんな修平と松岡さんの掴みどころのない性質(たち)を、不思議人間で頗るウザい、と絵美さんは一刀両断するけどね。


その不思議人間のひとりこと、松岡さんが席に着いた瞬間、真っ黒な瞳がこちらに向く。


彼の対角線上にいる私がジッと見つめ返せば、「ねえ」と30過ぎの男とは思えない甘撫で声を掛けてきた。


「はい?」

「喉乾いたー」

うーんと両腕を伸ばして気だるそうに言うその様は、もはや飼い慣れた猫ではなくどら猫そのもの。本能に忠実すぎるがゆえに誰も手に負えないとこなど特に。


「わかりました」

デスク上のPCを起動したのち立ち上がった私は、構造課の目と鼻の先にある給湯室に入った。



名古屋にあるお気に入りのお店のコーヒー豆は中挽きがお決まり。ちなみに今回選んだ品種はブラジル。


苦みは強いけれど、この濃さが目覚めの一杯にはぴったりとお店で教えて貰ったのだ。


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