エリートなあなたとの密約
コーヒー好きで密かに拘る修平の影響を大いに受けた私も、ひと手間を惜しまずドリップ式が定番になった。
最近はインスタントでも美味しく淹れられて簡単便利な機械があるものの、1杯ずつ淹れるその味に魅せられてしまった。わざわざ器具を持ち込んで楽しむ価値がある、と思うほどに。
お湯を注いだ瞬間から給湯室に立ちこめる芳醇なコーヒーの香りに癒されるのが日課というのか、ここ数年の朝の定番。
また修平と合う数少ない休日や仕事終わりの夜、ソファで隣り合って飲むのは至極のひとときだったりする。
自宅用にも購入してきたものの、その“今度”がいつか分からないのは残念なところ。でも、それまでのお楽しみとも言えるけれどね。
彼の乗る飛行機がそろそろ発つかななどと思いつつ、簡易キッチンで使い終えた器具をさっと洗う。明日のためにきちんと乾燥させておくのも忘れずに。
そうして熱々のコーヒーを注いだ空色と朱色のマグカップをそれぞれ手に持ち、いそいそと給湯室を出た。
「ありがとー」
すると、いつの間にか出入り口で待ち構えていた松岡さんに両方のカップをさらわれる。
そのまま自席に着いた彼の手には、国名のロゴが主張するマグひとつ。もう一方の朱色のマグは、彼のデスクにそっと置かれてしまった。
「一緒しよ?」