エリートなあなたとの密約
月日の流れって本当に早い。――若いって良いねぇ、とあの自分大好きな瑞穂までもが言うようになったのだから。
「課長ぉー。
吉川さんは新婚さんなんですから、手出しするのは私にしてくれませんかぁ?」
談笑混じりにハンド・マッサージが続く中、遠慮なしに割り込んで来たのはいつもより1オクターブ高い声の奥村さんだった。
「なんで?」
すると松岡さんは私の手を揉むのを止めて、考えの読めない視線を彼女へと向ける。
「私が課長を好きなので嫌なんですぅ。
あ、でも、私はちゃんと公私弁えますから気にしないで下さいねぇ」
フロアに響くほどの呑気な発言によって、耳に届いた者は一様に固まっていた。……職場の癒し系が課長に公開告白をした、と。
その一方で松岡さんに手を握られたままいる私といえば、ふたりを遠慮がちに交互に見る外ない。
「ふーん」
だが、まるで興味ないと言わんばかりに冷たい声色の松岡さんは容赦なく彼女から視線を逸らした。