エリートなあなたとの密約
その瞬間、ひゅーひゅーと囃し立てる声が会場内のあちこちで聞こえた。
どうやら壇上で派手に騒いでいた私たちに、出席者すべての視線が集まっていたらしい。
「修平っ!」
「今日は特別な日だもん」
ニッコリ笑った上、にべもなく言われてはこちらの方が返す言葉もない。
そんな私も、この場でキスされたことが恥ずかしくないのだから困りもの。
但し、光沢感のあるシルバーのタキシード姿で此処でも不思議な色香を放つ彼は、本当に罪づくりな人だとは思う。
「ひゅーひゅー」
「もー!松岡さんうるさいっ!」
「妹ご乱心ー」
「本気でうざ!」と、呆れたように言う絵美さんにキラー・スマイルが発動した。
「お姉さま、そんなに妬かないで?」
「アホか!」
黙っていれば……な人たちではあるけど、飾らないところが彼らの魅力だろう。
そうして4人で屈託なく笑い合い、今しかない大切なこの時を楽しんでいた。
秘書課から試作部へ異動した直後は、こんな未来が待っているとは夢にも思わなかった。
美しい薔薇のあしらわれたカクテルドレスを着て、上司の修平と生涯を共にする誓いを立てた今日という日。……振り返ってみても本当に長かったのは隠しようもない本音。
ただ楽しいときはもちろん、寂しいとき、辛いとき、苦しいときと、これまでも語りきれないほど沢山の思い出がある。
またその時間は確実に、未熟だった私を様々な意味で成長させてもくれた。