エリートなあなたとの密約
諦めて正面へ視線を戻すと、怜葉ちゃんの黒い瞳と目が合った。その瞳に嬉々としたものを浮かべた彼女は、おもむろに顔を上げてこう告げる。
「彗星さん、そろそろ離して下さい。私、これから真帆さんと一緒に行ってきますから。
あ、どうせ、まーくんが勝手について来るから、修お兄ちゃんもご心配なく」
その言葉に思わず、「え?」と目を丸くする。私の隣で修平は、彼女に薄く笑って頷いていた。
「姫の行く先ならどこまでも……!」
「まーくん、それ以上言うとストーカーだから」
「仕方ありませんね。——怜葉さん、いってらっしゃい」
「はい、どうも」
言葉以上に残念といった顔を見せる高階さんが拘束を解き、サッと抜け出る怜葉ちゃん。
そして立ち上がった彼女は、いまだにぽかんとしていた私を誘ってくる。
「折角なので、ちょっとお散歩しませんか?」と、静かに微笑んで。
こうして私と怜葉ちゃんに、まーくんの3人で万朶の間をあとにすることになった。
先頭を行く、まーくんの後ろについて渡り廊下を進むと、来た時に見た中庭の辺りに差しかかる。
すっかり夜に染まった空の下、眼前に広がる庭園のライトアップされた緑が闇と見事に融合している。
岩で囲われた池では、ゆったりと泳ぐ錦鯉の姿を捉えて。ピチャリ、と魚の跳ねる水音がまた心地よい。
不意に、隣を歩いていた彼女がその足を止める。背筋がピンと伸びた佇まいはたおやかだ。
「ねえ、まーくんお願いがあるの。
私、久しぶりにまーくんのダージリンが飲みたいな」
前方の彼に首を傾げ、おねだりする怜葉ちゃんの声は少し甘い。当然、彼は今にも天に昇りそうな表情へと変わる。