エリートなあなたとの密約
彼女がその部屋の襖を静かに開く。すると、万朶の間と似たような空間が広がっていた。
入室を促された私は小さく頭を下げて足を踏み入れる。そのあとに続いた彼女が再び戸を閉めた。
向かい合って席につくと、「今日は本当に楽しかったね」と小さく笑って改めてお礼を告げる。
「修お兄ちゃんの溺愛ぶりにあてられました」
「こちらこそ、ごちそうさまです」なんて茶化し返せば、どちらともなく笑い始めた。
ひとしきり笑い合ったのち、彼女の艶やかな双眸を捉えた私はこう言った。
「事前に彼から言われたの?——席を外して欲しいって。
さっきの怜葉ちゃんだって、気を使って“おねだり”されたんでしょう?」
和やかな空気が包んでいた室内も、そこで静寂が訪れる。この問い掛けに彼女は目を丸くした。
「気づかれ、ますよね。……私の取り繕いって昔から中途半端みたいで」
「本当はもっと早くに聞くべきだったよね。ごめんね?」
謝ると即座に、「とんでもないです」と首を振って微笑む彼女の気質はやはり優しいのだろう。
「ここ最近の彼のバタバタを見てるとね、やっぱり心配。
それでも、いま話して貰えないってことは私に出来ることは何もない証拠でしょう?
だから、のんびりティータイムを楽しんだってことにしたいな。——私に出来るのはそれだけ」
疑念だらけの状態で探りを入れても、それを隠すための優しい嘘が必要になる。
そんな取り繕いをされるのならば、今も奮闘する彼の隣で笑って待っていたい。
「修平のお陰で、少しタフになれたのかも?」と添えた私に、俄に瞳を見開く彼女。
暫し見つめ合ったのち、凛とした怜葉ちゃんの眼差しは中庭へと向けられる。