禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~



「……あの頃と、同じ色だね……」


重ねていた手をそっとほどき、アンはリヲの揺れる髪へと手を伸ばした。


デュークワーズでの身分を隠すために染めた偽りの髪色。

けれどそれは皮肉にも、本来の彼が持つ夜の髪色であった。


「……私、兄さんの黒髪がとても好きだったの。

夜の色みたいで、とても神秘的で…ずっと惹かれていた……」


アンの瞳が切なさに揺れる。

彼女の胸に蘇るのは、幼い日。静寂の森で太陽の髪と夜の髪が触れ合い、溶け合うような熱で抱きしめ合った日。


アンを見つめるリヲの手も、ゆるりと黄金の髪を撫ぜた。


「……俺も……お前の光のような髪にずっと憧れ、惹かれ……触れたいと思っていた…」



――闇は光を 光は闇を――


アンの脳裏に、あの詩が過る。


――………ああ、そうか。兄さん、きっと、私たち。



幸せそうに微笑んだアンの髪を梳き、頬を撫で、手をとって、リヲはそこにキスを落とした。


「髪だけじゃない…お前の全てに、触れたかった……ずっと、ずっと」


アンも腕を伸ばし、リヲの首筋に絡め抱き寄せると、彼の耳元で一拍の呼吸の後、静かに告げる。


「………私ね……どんな辱めを受けても負けなかったわ。

……何人の男に穢されようと……心は、貴方を想う心だけは……守り抜いたの」


その言葉に、リヲの中の感情が抑えきれなく溢れ出す。

不自由な腕で強く強くアンを抱きしめ、苦しげに言葉を紡いだ。



「……お前は、穢れてなどいない…!!

お前は…お前は……この世で誰よりも純粋で穢れの無い、たった一人の俺の……俺の愛する女だ…!!」



――禁断の、恋――


幼き日に禁じられた情熱は、全てを失くし捨て去った今、再び幕を開ける。



「……愛してる……リヲ……愛してる……」



騎士の誇りも、祖国も。

剣を握る腕も、光の加護も、なにもかもを失くした二人にたったひとつ残った真実。



――……愛してる……――



狂おしく、哀しい唄のように。


光と闇は、溶けるように交じり合い、求め合い、

ただ、ただ、愛を謳った。




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