スイートペットライフ
***

私はそのまま大倉さんに抱えられて真田さんの運転する車に乗せられた。

大倉建設から戻ってそのままだった私は運よくバッグをもっていたので、スマホを取りだして事務所に連絡をする。上司に早退の許可をもらい、佐和子先輩に今日は戻らないと告げると「外出先はエバースターでいいのかしら?」とからかわれた。まぁ間違いではないけど。

その間も大倉さんは私の手をにぎったままで、そんな二人を真田さんはバックミラーで見ながら嬉しそうに微笑んでいた。

通話を終えても私たちふたりは特に何も話をしなかった。

でも繋いでいた私の手のひらに大倉さんがいつかのようにハートマークを描いている。

これって……。

「オミ君、これ温泉の時もしてたけど、どういう意味があるの?」

大の大人がするには少し幼い。不思議に思って聞いてみる。

「これはね、僕が母親に愛されていた数少ない思い出の一つだよ」

「お母さん?」

「そう。僕の母親は僕が十五歳のときに男の人と出て行ったんだ。僕一人おいて」

突然の話に驚く。

「一人ってお父様は?」

確かお父様は健在のはずだ。

「今僕が父と呼んでいる大倉建設の社長は本当の父親じゃないんだ。僕の伯父さん」

「伯父さん?」

衝撃の事実に言葉が続かない。

「僕の母親はね、人生の中心が恋愛のような人だったんだ。いいように言えば純粋でまっすぐで。だけど裏を返せば恋愛中はそれ以外のことはどうでもよくなる人だった」

私と繋いだ手を見つめながら話す。
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