スイートペットライフ
「だから僕を妊娠したときに、父親――僕から言えば祖父――に反対されて家出したんだ。
当時の彼氏と暮らすために。少しの間はうまくいっていたんだと思う。だけどお嬢様育ちの母のことだから、きっとおままごとみたいな生活だったんだろうね。
すぐにその人ともダメになったみたい。でも家にも帰ることも許されず僕を一人で産んだんだ。お金は伯父さんに頼ったみたいだけど」
「そうですか……」
繋がれている手と反対の手も大倉さんの大きな手のうえに重ねる。きっとあまり話したくない話だろう。
それでも話そうとしてくれている、この手で少しでも癒してあげることができればいいのに。
「それからも母は恋愛まっしぐらで、狭いアパートに母の彼氏が来るといつも外に出されたんだ。幸い近くに図書館があってね、そこの本を読みふけっていたから勉強だけはできる子だった。まぁそれはどうでもいいか……。
昼間はね、まだいいんだよ。だけど夜はね。彼氏が来てるときはキッチンで寝かされるだ。冬だとどんなに布団をかぶっていても寒いし、彼氏と母親の“色んな”声が聞こえてくるんだ」
そのときのことを思い出しているんだろう。目を閉じたまま私の手をギュッと握った。
「彼氏が途切れたときには僕がその変わりをするんだ。手を繋いで母を安心させて。そういうときにしてくれたのがこの“ハートマーク”だったんだ。
小さいころは母がまた優しくしてくれるのが嬉しかったけど、中学生にもなればこれが次の彼氏が見つかるまでの“つなぎ”だということが分かった。今は優しくてもすぐに僕から離れてしまう。
それを理解したころ、急にいなくなったんだ。本当に急に。いくら待っても戻ってこない母親の代りに伯父と名乗る人が現れた。それが今の大倉建設の社長――今の父だ」
当時の彼氏と暮らすために。少しの間はうまくいっていたんだと思う。だけどお嬢様育ちの母のことだから、きっとおままごとみたいな生活だったんだろうね。
すぐにその人ともダメになったみたい。でも家にも帰ることも許されず僕を一人で産んだんだ。お金は伯父さんに頼ったみたいだけど」
「そうですか……」
繋がれている手と反対の手も大倉さんの大きな手のうえに重ねる。きっとあまり話したくない話だろう。
それでも話そうとしてくれている、この手で少しでも癒してあげることができればいいのに。
「それからも母は恋愛まっしぐらで、狭いアパートに母の彼氏が来るといつも外に出されたんだ。幸い近くに図書館があってね、そこの本を読みふけっていたから勉強だけはできる子だった。まぁそれはどうでもいいか……。
昼間はね、まだいいんだよ。だけど夜はね。彼氏が来てるときはキッチンで寝かされるだ。冬だとどんなに布団をかぶっていても寒いし、彼氏と母親の“色んな”声が聞こえてくるんだ」
そのときのことを思い出しているんだろう。目を閉じたまま私の手をギュッと握った。
「彼氏が途切れたときには僕がその変わりをするんだ。手を繋いで母を安心させて。そういうときにしてくれたのがこの“ハートマーク”だったんだ。
小さいころは母がまた優しくしてくれるのが嬉しかったけど、中学生にもなればこれが次の彼氏が見つかるまでの“つなぎ”だということが分かった。今は優しくてもすぐに僕から離れてしまう。
それを理解したころ、急にいなくなったんだ。本当に急に。いくら待っても戻ってこない母親の代りに伯父と名乗る人が現れた。それが今の大倉建設の社長――今の父だ」