鬼神姫(仮)
「巴」
背後から掛けられる柔らかな声に巴はゆっくりと顔を動かした。
視界に入る顔は巴を心配している表情だ。
「……私は、想う相手とは幸せにはなれないの?」
呟くように訊くと、七海は戸惑いながらもその腕を伸ばしてきた。長い腕が巴の小さな体を優しく包む。その温もりは心地好くて、何処か悲しい。
「私だけじゃないんだよね。想う相手と結ばれないのは、私だけじゃない。葛様も、龍様も、景様も、知羽様も、皆そう。花邑様も、霧原様だって、きっとそう」
巴は己に言い聞かせるように言った。
──そう、私だけではないのだ。
全て、輪廻が成すこと。輪廻があるからこそ、そうなのだ。
ならば、輪廻の解放を望むことは間違いではないのだろうか。そう思えてならなかった。
輪廻さえなければ、皆、想う相手と結ばれることが出来るのではないか。
小さな巴の体を、七海は強く抱き締めてくれた。その腕から伝わるものは一体何なのか、探らずとも理解出来た。