廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
『奥さんは?!』
『妻は実家が岡山でね、両親が連れ戻しに飛んできた。
非国民とは一緒にさせてはおけん
そう言って離縁させられたよ』
『まあ、死ぬ覚悟で一緒に逃げたのに?奥さんはそれでご両親の言いなりになったんかね?』
『非国民がどういう仕打ちを受けるか、彼女は両親から聞かされたんだろう。
オレは丸一日獄中に留め置かれ、出てきたときには妻はいなかった。あとに残ったのは離縁状だけさ。
僅かな望みを抱いていたんだ。妻と異国でひっそりと暮らし、子供に囲まれて温かい家庭を築く。
そんなこと、人間に生まれたなら当たり前にできることじゃないか?
それが出来ない世の中にほとほと絶望した。
だが、妻が何も処罰されなかったことにはホッとしたよ』
『あんたは?それからどうなったんだい?』
お陽の胸は熱く苦しくなる。
彼女がこんなに人に同情したのは初めてだった。