廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
『オレは憲兵隊に連れられて静岡に逆戻りさ。
後ろ手に縛られ腰縄を絞められ……
罪人扱いで静岡まで送られた。
汽車を降りると母親がたった一人。真っ暗な駅舎で待っていた。
親不孝者が!!
非国民が!!
そう言って母親に何度も叩かれた。
縛られたオレは、抵抗できずにただ母を睨んだ。
【よくもオレを売ったな】と
心から軽蔑した目で睨んでやったのさ』
お陽は、ついさっき逢ったばかりの悟の心が……
心の奥底が見えた気がした。
『兵隊さん』
お陽は頬杖をついて、悟の坊主頭を見つめていた。
そしてその後ろ頭をヨシヨシと撫でてやる。
『あんた……おっかさんだけは味方でおって欲しかったんじゃろう?
ずっと、ずっとそうじゃったんじゃろう?
でもとうとう最後まで、おっかさんはあんたの味方になってくれんかった。
可哀想にね。
あたいもね、血の繋がった父さんに味方になって欲しかった。
じゃけどね、継母の言いなり。
とうとう女郎にまでさせられて……』