廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
同じ日の午後。
宇品の港では、出征兵士への最後の面会が許されていた。
悟は、自分に面会などあるはずはないと、昨夜の寝不足を補うべく
集められた暗い倉庫の中で、背のうを枕にして仮眠をとることにした。
『おい、貴様。昨夜の女郎はどうだった?』
昨夜一緒に色街へ繰り出した兵士が、不意に話しかける。
『そりゃぁ良かったさ』
はずかし紛れに顔を軍帽で隠した悟は、おどけて答えてみせた。
『貴様、もうこの世に未練などないほどヤりつくしたんだろう。
昨日とは顔つきが随分違うぞ』
別の二等兵は、そう悟をからかい煙草を吹かした。
『肝が据わっただけさ。戦はこれからだ』
悟は気取って言い切る。
本当は恐怖で気が狂いそうな心を、必死で誤魔化しているのだ。
それはきっと、他の兵士も同じだったに違いない。
『遠藤 悟!……遠藤二等兵、おらんか!?』
『……おい、遠藤。起きろ、貴様呼ばれたぞ』
ウトウトしかけた悟は、驚いて飛び起きた。
『はいっ!! 私であります!』