廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
『悟、お前もとうとう年貢を納めにゃならんな』
面会所に現れた義父は、いつもの継ぎ当てだらけの着物と無精髭の姿ではなく
国民服を着て髭を剃り、身なりを整えていた。
『なんちゅうツラだ、悟。化け物でも見たようだな』
義父は面会所の木の椅子に腰掛けながら義理の息子に憎まれ口を叩く。
『わざわざ広島まで、憎まれ口を言いにきたのか?父さん』
悟も義父の隣に腰をかけるが、彼は本心から義父の顔など見たくはなかった。
『バカやろうが』
義父の乱暴な言いぐさに舌打ちをする悟。
『なんで母さんに手紙なんぞ書いた?』
義父が言っているのは、母が憲兵隊に差し出した手紙のことだろう。
『母さんや、弟妹に迷惑がかかると思って……最後に詫びたかったんだ』
『手紙なんぞ書かずに、さっさと大陸に行っちまえば、母さんも気持ちの拠り所があったろうに……
テメエの下手くそな手紙を目の前に置いて、母さんは一晩じっと考えたんだ。
手紙なんか寄越して……と言いながら。
だから、母さんを責めるな』