廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
『責めるな?……そっちは村八分にはならねえだろうが、こっちはお陰さまで最前線だ。
死んだら化けて出てやると母さんに伝えてくれ』
『この腑抜けが』
義父は懐から一通の手紙を取り出した。
『母さんからだ。船の中で読め』
『今さら……』
義父は手紙を悟に無理矢理持たせて言った。
『ワシも若い頃、シベリアに出兵したんだ。
生まれ持った家柄のお陰で案の定最前線だ。
でもなあ、悟。
戦場で勝敗を決めるのは、【悪知恵】だ。
知恵が働くヤツを神様はお好みと見えて、オレは無傷で極寒の地から生還して戻った。
手に職までつけさせてもらったしなぁ』
悟の義父は、身分差別を受ける家柄だった。代々その職業が決められていたが、シベリア出兵中に電気工の戦友と行動を共にしていたため、その技術を身に付けた。
復員後は電気工の仕事で一家を支えていたのだ。