廓にて〜ある出征兵士と女郎の一夜〜
民間人の集落を襲い、食料や家畜、水や武器を奪えと軍が命じているのと同じことである。
大陸打通作戦には何十万の兵隊が送り込まれていた。兵隊の方も餓死者を出さないために背に腹は変えられない。
結果、中国の現地人に34と聞いただけで逃げ出さなければならないほどの恐怖を植え付けてしまうことになる。
しかし、中国大陸は広大に広がる大地である。
食料徴発など、そう簡単にはできるわけがない。
特に困ったのは飲料水だ。
昼夜を問わず、何十キロと歩かされる兵隊には、飲料水は不可欠である。
しかし、大陸のど真ん中。清潔な水はなく、田んぼの泥水、水溜まりの水で喉の渇きを潤さなければならない。
兵隊の中には次第にコレラや赤痢などが蔓延。
この為、日本陸軍が企てた無謀な大陸打通作戦で命を落とした大多数(八割ともいわれる)は対中国や米軍との戦いによる戦死ではなく、病死、餓死、自殺者だった。
悟は漢口の野戦病院で10日間生死の境をさまよっていたため、紙一重のところで、この無謀な強行軍に参加せずに済んだのである。