今すぐここで抱きしめて
「ごめんね、あの、今日はもう帰らないと……」


席に戻るなり、そう口にした。


座ってしまうと言い出せなくなりそうだったから。


飯田くんは私がそう言うって分かっていたのか、特に何も言わず立ち上がった。


ホッとしながらカバンを手に取って、もう一度謝ってそれから今日の返事はまたにしてもらおうと、口を開けかけたとき、


「今の電話、山瀬さんですか?」


飯田くんの口から当たり前のように彼の名前が出た。


「……誰って?」


聞き間違いかと思って、もう一度聞き返しても、


「だから山瀬さんですって」


彼以外に誰がいるんだと言わんばかりに名前を口にする。

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