Summer again with
『それから、怖くて上手く泳げないし。海は、嫌い。…暑いし、日に焼ける夏も、嫌い』
嫌い………
彼はしばらく私を見つめたあと、すと、と堤防から降りた。
『おいで』
目を細めて、見上げられる。
手を差し出され、私は堤防から降りた。
触れた手に、ドキドキする。
ナツさんは、私の手を引いて海辺を歩きはじめた。
彼の、少し後ろで歩く。
サンダルを履いた足に、海の水が浸かる。
冷たくて、気持ちいい。
『…海が嫌いとか、もったいないよ。せっかく名前に海ついてんのに』
泳げなくてもいいじゃん、と言う彼の笑顔が眩しかった。
…なんだろう、私、おかしくなったんだろーか。
変な心地。現実味がしなくて、目の前の季節に夢中になる。
夏の太陽が、私の心までじわじわと焼いていく。
ナツさんは砂浜や海で泳ぐ人々を見て、楽しそうに笑う。
『…ここの人達は、毎年楽しそうにしてんのにさ。この季節に、見慣れない子がつまんなそーにしてたら、声かけたくなるだろ』
…それで、声をかけてきたんだ。
私に構うのは、つまんなそうな顔をする私を、どーにかしたかったからなのかもしれない。
彼が、『夏は楽しいよ』と言って笑う。
私を見つめて、夏がよく似合う笑顔で。
『夏が嫌いとか言わないでよ。悲しいじゃん』
…眩しくて、目を細める。
目の奥が、彼の笑顔を焼きつけるように、チカチカして。