Summer again with


『それから、怖くて上手く泳げないし。海は、嫌い。…暑いし、日に焼ける夏も、嫌い』


嫌い………

彼はしばらく私を見つめたあと、すと、と堤防から降りた。


『おいで』


目を細めて、見上げられる。

手を差し出され、私は堤防から降りた。

触れた手に、ドキドキする。


ナツさんは、私の手を引いて海辺を歩きはじめた。

彼の、少し後ろで歩く。


サンダルを履いた足に、海の水が浸かる。

冷たくて、気持ちいい。


『…海が嫌いとか、もったいないよ。せっかく名前に海ついてんのに』


泳げなくてもいいじゃん、と言う彼の笑顔が眩しかった。


…なんだろう、私、おかしくなったんだろーか。

変な心地。現実味がしなくて、目の前の季節に夢中になる。

夏の太陽が、私の心までじわじわと焼いていく。


ナツさんは砂浜や海で泳ぐ人々を見て、楽しそうに笑う。

『…ここの人達は、毎年楽しそうにしてんのにさ。この季節に、見慣れない子がつまんなそーにしてたら、声かけたくなるだろ』

…それで、声をかけてきたんだ。


私に構うのは、つまんなそうな顔をする私を、どーにかしたかったからなのかもしれない。


彼が、『夏は楽しいよ』と言って笑う。

私を見つめて、夏がよく似合う笑顔で。


『夏が嫌いとか言わないでよ。悲しいじゃん』


…眩しくて、目を細める。

目の奥が、彼の笑顔を焼きつけるように、チカチカして。


< 13 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop