Summer again with
彼の言葉に別の意味が含まれているのに気づいて、私は眉を下げた。
『…な、ナツさんのことじゃないよ』
『夏が嫌いってことは、俺のことも嫌いってことでしょ〜』
ナツさんは、砂浜に落ちていた近くの枝を拾って『見て』と言った。
枝で、砂浜に線を引いていく。
『俺のナツは、こー書くの』
"那津"
書かれた文字に、私は目を見開いた。
『季節の夏かと思ってた』
『よく言われる、実はね』
…でもやっぱり、ナツさん、だな。
『素敵な、名前だね』
文字を見つめて言うと、彼は嬉しそうに『だろ』と笑った。
『ナツ、でいーよ。未海』
突然呼び捨てにされて、心臓が飛び跳ねた。
…ああ、でも。
彼に呼ばれる名前は、なんだかとても良いもののように感じた。
クラクラするくらいの、夏の温度。
ナツを見つめると、彼は『ん?』とこっちを間抜けな顔をして見る。
私はそのとき、この町に来てはじめて笑った。
『夏って、いい季節だね』
眩しく笑う彼が、目に映る。
海が、見たことないくらい輝く。
目に、濃く焼きつく。
…君がいるこの季節は、案外いいものかもしれない。
私はこの日、ふたつの"ナツ"を好きになった。
*
それから、私は毎日海の家に行っては、ナツに会って、話をした。