素敵な上司とキュートな部下
カフェの勘定をどっちが払うかで揉めたが、結局大輔が払った。


「お返し、という事でもありませんが、今日は全部僕に持たせてください」


という大輔の強い主張を、加奈子は渋々承諾した。つまりは“抱かせる代償”という事になるわけで、本当は嫌だったのだが。


電車に乗り、大輔と並んで座席に座ったが、加奈子は無口だった。


(こんな事してていいのかな。嶋田君は平気なんだろうか……)


加奈子には、数は少ないが恋愛経験はある。社会人になる前だから、もう10年も前の事ではあるが。少ないが、男性経験もある。

だが、遊びや軽い気持ちで男と寝た事は一度もない。少なくてもその時は愛し、愛された相手としか寝た事はない。


それだけに、今回の事に加奈子は躊躇せざるを得なかった。大輔の事は嫌いではなく、むしろ好きと言ってよいと思う。しかし愛までは行っていない。たぶん、まだ……

それは大輔も同じだろう、と加奈子は思う。そんな二人が関係を持っていいのかどうか。自分は、そして大輔は、そんなに軽い人間だったのか……


「主任、降りますよ?」

「え?」


この成り行きから“降りる”のかな、と加奈子は一瞬思ったが、そうではなく、電車が大輔の駅に着いたから、電車から“降りる“の意味だったらしい。

ノロノロと立ち上がる加奈子とは対象的に、その手を引く大輔は元気いっぱいだった。

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