『一生のお願い、聞いてよ。』
だんだん女の人の背中が近くなって、声をかけようとしたその時、
女の人が一瞬にしてあたしの目の前から消えた。
「え」
女の人は彼女の身長と同じくらいの深さの溝にストンと落ちていた。
覗き込むと、女の人は溝の中でキョロキョロして、あたしの顔を見上げた。
女の人『あら?さっきの』
なに?
この人あほなの?
「さっきのーじゃないでしょ、なにしてんの」
女の人『分かんないけど、落ちちゃったみたい』
へへっと女の人はまた可愛い笑顔で優しく笑った。
「何笑ってんの?ばかじゃないの?」
女の人『よく言われるの(笑)』
しゃがみこんで溝の中を覗き込むあたしを、溝の中からあたしを見上げる彼女は、本物のばかなんだと確信した。
「おばさん、出れんの?」
女の人『んーと』
女の人はまたキョロキョロとした。
女の人『あそこから登れるかな?』
彼女が指を指した方向を見ると、溝の側面のところに穴があった。
「あそこに足入れて上がるって言ってんの?」
女の人『そう!』
彼女はへらっと笑ってそこまで歩いた。
あたしも、その上を歩いてついていった。
女の人『悪いんだけど、足乗せたら手貸してもらえる?』
「いや、それはいいけど、滑りそうなんだけど」
穴の中は、なんだかぬるぬるとしてそうな感じだった。
女の人『んー、大丈夫じゃない?』
女の人はまたへらっと笑って穴に足を乗せた。
その時、案の定滑って頭を売って尻餅をついていた。
女の人『いったーい!』
女の人は子どものように、口を尖らせ、汚れた洋服をはたいていた。
「あのさ、ばかだよね、あんた」
女の人『ばかばか言わないでよー(笑)』
女の人を見て、あたしも自然と笑いが出てきた。