紫陽花ロマンス


大月さんは霞駅まで送ると言いながら、一緒に電車に乗って月見ヶ丘駅までやって来た。


さらに家まで送ってくれると言う。夜道は危ないからと。でもね、まだ八時を過ぎたばかりなんだけど……


アパートに向かって並んで歩く私たち距離は、もう拳ひとつ分じゃない。繋いでないけど、小さく揺れる手は触れそうなほど近くにあるのを感じる。


ともすると、手繰り寄せたくなる。
さっきみたいに、指を絡めて握り締めてほしい。


「あ、一番星だ」


大月さんがゆるりと見上げた先には、一際輝く星がひとつ。今にも闇に呑まれそうな西の空に、ぽつんと浮かんでいる。


「宵の明星だね、明日は晴れるかな」


あれ?
そういえば、今日は雨が降らないかも。


見上げた空は既に黒いけど、雲らしきものは見えない。


そんなこともあるのかな?
あってもいいのかな?




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