紫陽花ロマンス


涙が止まるのを待っていたかのように、雨も上がっていた。


「駅まで送るよ」


と言う彼は、私の返事も聞かずに並んで歩き出す。心配だからと、半ば強引に。


「いつでも連絡してよ。あっ、誤解しないで、やましい気持ちは全くないから。ただ、また話ができたらいいな……と思っただけだから」


私がまだ何にも言ってないのに、誤解してると勘違いして必死で訂正し始める。


本当に生真面目な人なんだ。
面白くて笑ってしまう。


すると、彼が固まってる。
不思議そうに私を見たまま。


「あの……どうしたの?」

「笑った方がいいよ」


ぽつりと彼が零した。


恥ずかしくて伏せた顔が熱を持つ。


「ごめん、顔上げて……あの、笑ってる方がかわいいから、笑ってよ」


と言った彼は、ごそごそとバッグの中から手帳を取り出した。あの日と同じようにペンを走らせ、丁寧に切り取った一枚を私に差し出す。


「前にも渡したけど、僕の携帯の番号。いつでも連絡してよ」

「ありがとう」


戸惑いながらも受け取って、改札口へと向かう。振り向いたら、彼が見送ってくれてる。


確かに、私の気持ちは軽くなっていた。




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