紫陽花ロマンス
6. 応援したい二人


まずはアパートに戻って、少し時間を潰すことにした。


いつも通り十七時まで働いたことにして、十八時ぐらいに実家に光彩を迎えに行こう。それまでに、もう少し気持ちを落ち着かせたい。


早退したなんて両親に言ったら、何かと問い詰められるに決まってる。説明するのも面倒だし、体調不良ならまだしも、そんな理由は言いたくない。


両親には、弱音を吐きたくない。
余計な心配をさせたくない。


離婚する時、
『あんな男、私から捨ててやった』
と言ったのだから。


そうだ。
私から捨てたんだ。
捨てたのは私、捨てられたんじゃない。


バッグを開いたら、内ポケットの中に無造作に折りたたまれた紙切れが覗いてる。


そっと開くと、彼の名前と電話番号。


『カッコいい』
と言った彼の声が蘇る。


「カッコよくないよ、全然」


呟いて、紙切れを手帳に挟んだ。



ベランダに干していた洗濯物は、やはり外側に向いた肩の部分が僅かに湿っていた。





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