はじまりは政略結婚
すると智紀は小さく笑って、私の手を引っ張り返した。

「そういうところ、最高に好きだよ。そのままの由香が大好きだ」

そう言ってギュッと強く手を握り、ゆっくりと歩き出す。

何気なく言った言葉なのかもしれないけれど、自分にまるで自信が持てれなかった私には、特別な意味に聞こえた。

海里に言われた、『社長令嬢と付き合っても得がなかった』のセリフが、ますます自分を卑屈にさせていたから。

私にあるものは、父から貰った肩書きだけ?って、そんな葛藤も智紀といることで、少しずつ薄れていく気がする……。

「本当に美味しそうだな、イカ焼き」

炭で焼かれているイカの姿を見て、智紀は目を輝かせた。

「いらっしゃい。ずいぶん立派な車から降りてきたから、どんな人たちかとビクビクしたよ」

さっき私を見ていた女性は、予想通り店の店主で、50代後半くらいの恰幅のいい人だ。

パーマのかかった髪は短く切られていて、赤い半袖トレーナーに黒いズボンを履き、黄ばんだ白いエプロンをつけている。

二重の大きな目尻には深いシワがあり、それをさらにクッキリとさせて、楽しそうに言ったのだった。

「お兄さんたちは夫婦?」
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