はじまりは政略結婚
「おーい、由香。なにをそんなに落ち込んでるんだよ」

俯いた私の背中を、智紀は優しく突いている。

「別に……落ち込んでなんかないわよ。ただ……」

「ただ?」

私の顔を覗き込む智紀は、口角を上げて優しく微笑んだ。

「可愛い子が好きなの? って思って……」

おずおず聞くと、智紀は小さく吹き出したのだった。

「何だよ、そんなことが気になったのか?」

「笑わないでよ。だったら、私のどこを好きになったのかなって、思っちゃったの。やっぱり、社長令嬢だから? 」

どんどん恥ずかしさが増してきて、視線をそらしてしまう。

智紀は何て答えるのか、不安と少しの期待を込めて待っていると、彼の両手が私の頬を包み込んできた。

「由香の気持ちは? オレ、お前の気持ちをちゃんと聞いてないんだよな。プロポーズの返事はまだ待つ。だけどせめて、どう思ってるかだけでも教えてくれないか?」

見上げると、真剣な眼差しで真っ直ぐに私を見る智紀がいた。

今でも二人で一緒にいることが不思議に感じることもあるけど、確実に私の気持ちは変わっている。

それは分かっているのだけど、口に出すのは照れ臭さもあるからか、簡単には出来なかった。

だから口ごもっていると、智紀がフッと微笑んで口を開いたのだった。

「オレが由香を意識し始めたのは、お前が高校生の時だったな」

「高校生⁉︎ そんなに前から?」

ふと明かされた智紀の気持ちに、ひたすら戸惑いを覚えた。
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