はじまりは政略結婚
「涼子さんも使う場所でしょ? 悪いから、私には使えない。ソファーを貸して? ここで寝るから」

すると、兄は穏やかな笑みを浮かべて、私の頬を優しく撫でた。

「ありがとう。そんなに気を回してくれて、本当に嬉しい」

「ありがとうは、こっちのセリフだよ。夜中に押しかけたのに、お兄ちゃんは嫌な顔一つしないんだね?」

撫でられた頬に温かさを感じながら、ようやく笑顔を浮かべられた。

やっぱり、兄に会うと癒される。

「当たり前だろ? 妹に頼られて、嫌なわけないじゃないか」

「お兄ちゃん……。ありがとう」

残りのお茶を飲み干すと、兄に掛け布団を借りてソファーへ横になる。

久しぶりに兄の側へ来てホッとしたからか、あっという間に眠りに落ちていた。

そして見た夢は、智紀と笑いながら手を繋いでどこかへ行くもの。

うろ覚えだけど、幸せな感覚だけは、夢とはいえハッキリと感じていた。
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