はじまりは政略結婚
「……香。由香、起きろ」

夢の中で聞こえる兄の声。

せっかく智紀の夢を見ているというのに、朝になったみたいだ。

それでも半分夢の中なのと、低血圧でなかなか起きれない私は、まぶたを開けることが出来ない。

「ダメだ。やっぱり、寝起きは悪いな」

兄のため息混じりの声に、私はほとんど無意識に応えていた。

「もうちょっと待って……。せっかく智紀の夢を見てるんだから……」

それを最後に、記憶はなくなっていて、どうやらまた眠りについたらしい。

ただ一つ、夢か現実か分からないけれど、誰かが私を抱き上げた気がした。

愛おしく感じるこの香りは確か……。

ーーーー
ーーー

ジリリリと、けたたましく鳴る目覚まし時計の音で飛び起きる。

「もう、お兄ちゃんてば、いつの間に目覚まし時計なんか……」

クラクラする頭で手を伸ばすと、どうにか時計に届いてベルを止められた。

と同時に、兄の部屋のソファーで寝ていたはずが、智紀のベッドにいることに気付いたのだった。
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