はじまりは政略結婚
「うーん……」

ふと目を覚ますと、壁掛け時計が午前三時を告げている。

智紀に抱かれた後、いつの間にか眠っていたらしい。

ふと目を横にやると、隣で眠っているはずの彼の姿がないことに気づいて、ゆっくりと起き上がった。

「智紀?」

部屋についているバスルームにも、お手洗いにもいない。

もちろん、バルコニーにもその姿がなく、急に大きな不安が押し寄せた。

まさか、涼子さんに会っているとか……?

嫌な想像をしてしまい、とにかく服を羽織ると静かに部屋を出た。

建物全体が常夜灯になっているけれど、歩くには充分な明るさだ。

ゆっくり階段を降りていくと、ボソボソと人の声がする。

それは、リビングから聞こえてきて、私は忍び足で近付いた。

ドアは開いていて、灯りが漏れていた。

こちらの姿が見えないように、ドアの横の壁に身を隠すように立つと、そっと中を覗く。

するとそこには、リビングソファーに向かい合って座る智紀と兄の姿があったのだった。
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