はじまりは政略結婚
「智紀が何でここにいるの⁉︎」

スーツ姿だけど、カバンも持たず手ぶらだ。

思わず全身を舐めるように見ると、眉をしかめた彼が鍵をチラつかせた。

「車で来てるんだよ。由香を迎えに来たの。やっぱりお前、どこへ帰ろうか迷ってたろ?」

「それで来たの? いつ私の仕事が終わるかも分からないのに?」

さすがに、これには驚いて目を丸くする。

まさか、あてもなくビルの前で私を張っているほど、智紀はヒマじゃないはずだ。

すると、今度はニヤッとして私の手を取った。

「祐也に、ちょっと職権乱用してもらって、由香の退社時間を聞いたんだよ」

「え? どういうこと?」

どさくさに紛れて、手を握るなんてやめて欲しい。

だからふりほどこうとしたけれど、強い力で握り返されてしまった。

「いつも何時頃帰るのか、勤務記録を見てもらったんだ。迎えに来ないと、ちゃんと帰ってくるか心配だったからな」
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