はじまりは政略結婚
呼び止めると、智紀は立ち止まって振り向いた。

その顔は、なぜだかとても嬉しそう……。

その意味が分からず怪訝な表情を浮かべると、彼に笑われてしまった。

「由香のちょこちょこ小走りする姿、オレ好きなんだよな」

「えっ⁉︎」

どうして智紀は、こう突拍子もないことを言うんだろう。

照れ臭さと理解出来ない複雑な気持ちとで見つめていると、彼はこちらへ近付いてきた。

「よく祐也の後ろを、大人になってもそうやって追いかけてたろ? どうしても、自分で実践してみたくてさ」

すると、まさにどさくさに紛れて顔を近づけてきて、さすがにそれは押し返した。

「こんなところで、やめてよ」

誰に見られるか分かったものじゃないのに、智紀は見境がなさすぎる。

「確かに、そうだな。防犯カメラもあるし、やめとくか」

涼しげな顔で身を翻すと、再び歩き出した。

「防犯カメラがあるのに、キスしようとしたの?」

呆気に取られていると、智紀は肩越しに私を見つめたのだった。

「おいで。早く行こう」
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